空手では四股立ちという立ち方があります。
相撲での取り組みや四股を踏む時に似た立ち方ですが、相撲のそれとは似て非なるものです。
空手と相撲では、戦い方が異なるためですが、相撲のように立ち会いでぶつかった場合、空手の四股立ちでは簡単に潰されてしまいます。
空手家は、組まれたら脆いので柔道の心得があればと鬼に金棒です。
空手と柔道は兄弟みたいなものですから、白帯時代から両方稽古するのも悪くはないのではないか。
打撃と組技をマスターすれば、こんな心強いことはない。
四股立ちとは何なのか。
そこが僕には分かりません。型の本来の意味が失伝してしまった今となっては、探りようがありません。
単なる足腰の鍛錬という目的ではない、もっと攻撃を強靱にするための秘密が隠されているような気がするのですがわかりません。あ現代の型稽古は「型のための型稽古」でしかありませんから。
「台風が直撃すると屋外に出て、雨戸を持ちその暴風雨に耐えて足腰を鍛えた」という沖縄の古い空手家のエピソードが残されています。
それほど重要だった立ち方が、今では足腰の鍛錬のためだけとは僕には思えません。きっと何か、忘れ去られた秘密が有るのだろう。
月刊武道(日本武道館発行)の2021年5月号に興味深い文がありました。
大相撲高砂部屋のマネージャー松田哲博氏(元力士)の ”四股探究の旅”という連載です。
これを引用したいと思います。
江戸時代の浮世絵師葛飾北斎の描いた相撲画の一つに「しこふむ」という力士が四股を踏んでいる絵があるそうです。
以下、上記連載から抜粋します。
「足を上げて下げるという動作は同じでも、現代の四股とはかなり異なる足の上げ方、重心のかけ方に見える。…」
「他の浮世絵師が描いた四股の画も何枚かあり、そこに描かれた四股もやはり同じようなポーズを取っています。…」
しこふむ(これが江戸時代の四股の形)

(相撲の四股)

現代の四股は、
「足を高く上げ軸足に全体重を乗せ筋力アップとバランス感覚を高める効果がある。」
江戸時代の四股は、
「軸足には体重を乗せず、上げた足の方に身体を傾け、上げる動作と下げる動作が同時に行われている印象です。」
というもの。
江戸時代と現代の四股を見比べ松田氏は、
「軸足の筋力を高め、股関節を柔軟にし、バランス感覚を高める効果があるとする現在の四股の観点からすると、ただ片足を浮かしただけに見える北斎漫画の四股は、まったく意味の無い動きということになる。」と。
しかし、著者がこの動作を踏み続けた感想として「腰」を感じやすくなったという。
現代の四股は足腰は鍛えられるが、「腰回り」が意識しにくくなる。
さらに、現代の四股は二拍子、三拍子の動作であるが、江戸時代の四股は一拍子だという。
そして、軸足に力を入れずに足の上げ下げを繰り返すことにより「腰」が上空から吊られているような感覚が生まれる。
つまり武道で言うところの「浮き身」「沈身」につながるのではないか。
と言う感想を述べている。
とても興味深い話です。
この絵を見て僕が思い浮かべたのが次のふたつの技術です。
動作の目的はそれぞれ違います。
単に形が似ているだけです。
これらの動作を毎日の稽古で行うことは、江戸時代の相撲で行われていた四股と似た「副産物」を得られているかもしれません。
・組手で使う「スネ受け」の稽古
・ナイハンチの型動作
です。
【スネ受け】
重心は左右の足の真ん中に置き、瞬間的に蹴ってきた足の左右どちらでも瞬時に対応できる受けの稽古です。
稽古では、組手立ちで、左右の足を上げ下げして、受ける練習をします。
敵の下段蹴りをイメージしながら、重心は左右に偏らず、身体の真ん中に置きます。

【ナイハンチ】
足を上げて「片足立ち」➡︎その足を下ろして「ナイハンチ立ち」という動作があります。
この片足立ちの際も重心は軸足には置かないということです。
(この動作を左右行う)

相撲は江戸時代から殆ど変わらず現代に受け継がれてきた国技です。
柔道や空手は国際化、選手の大型化が進む過程で筋力トレーニングが重視されるようになりました。
相撲の世界も、その根底にあった武術的身体操作が軽んじられ力まかせの取り組みが増えたのかも知れません。
以下、連載 四股探究の旅より抜粋
「下駄や雪駄よりもスニーカー、四股やテッポウよりも筋トレが好まれるようになり、相撲をスポーツとして捉え、内面の感覚よりも目に見える数字として表されるものが力士の中でも一般的になってきたからではないか。しかし、見に見えず数字では表せない”相撲力”こそが相撲の奥深さであり、身体文化としての高度な概念です。……」
と著者の松田氏は憂いていました。
武術としての相撲、空手、柔道はやはり時代の波にさらされて変貌していくのかもしれません。
この江戸時代の四股における重心のかけ方について、空手が武術であるためのとても重要なヒントであるはずです。
余談ですが、日本書紀には第11代垂仁天皇の前で行われた、野見宿禰と当麻蹶速の角力の様子が書かれており、それは相撲というより空手に近い戦いであったようです。
ここに相撲と空手の武術としての遺伝子的類似性が垣間見えてくるのが面白いですね。
武術からスポーツへと変貌してしまった極真空手ですが、基本動作のちょっとしたアイデアで武術を取り戻せるような気がします。



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